28

「ヒッキーヒッキーシェイク」津原泰水
SFマガジン塩澤編集長が編集者人生賭けるとの賜った文庫版(帯裏に詳しい)。事情はともかく、単行本より文庫本で手に取りやすくするべき一冊だと思うね。引き籠りカウンセラーが、顧客のヒッキー達にウィザード級ハッカーを引き込んで、バーチャルアイドル、未確認生物...といろんな仕掛けをしていく。彼の目的は...、仕掛けの顛末は...。テンポよいので、話の進行に身を任せれば、あれよという間に大団円に導かれる。そこかしこの音楽ネタも愉しい。"shoplifters
of the world unite"(は残念ながら出てこないが)な話といってよいかな。今、リアルで読んだ方が良い一冊。
27

「5分間SF」草上仁
火曜日の朝から一泊でイズミル出張、木曜日は欧州法人の中期計画打ち合わせ、金曜日の夕方にフランクフルトを出て、今日の夕方に帰宅。帰りの機内と帰宅後ごろ寝しながらカバー画にやられてポチった草上仁のショートショート集を読む。1991年から最新のものは2019年4月号SFマガジン掲載まで(書き下ろしを2篇含む)17本を年順不同で収録だけど、旧さはまったくない。レム風のシニカルだったり警句の効いたスラップスティックにまで行く手前で巧くオチが極まっているので、少し引っかかりながらサラリと読めるSFミステリ集になっている。「結婚裁判所」の判例を次々出すくだりは、特にレムっぽくて好き。書き下ろしの「トビンメの木陰」がマイベスト。
22

「バレエ・メカニック」津原泰水
幻冬舎の件でハヤカワから出ることになった「
ヒッキーヒッキーシェイク」、ミーハーに飛びつく前に、代表作を読んどこう...ってことで。
好みじゃないものに最近中ることも多いし。
3章からなる物語は、パプリカ的な顕在化した夢世界が現実に交錯する都内の数日を、天才造形家と神経外科医を中心に観察者視点で描く第一章に始まり、その事件の後日譚、さらにその事件が切欠で拡張現実が技術確立されたネットワーク社会でのエンディングへと。SFとして成立させている一方で、都市と記憶という普遍的な主題も見える。ディックというよりバラードか(エログロな部分も)。フランクフルトまでのフライトの間で一気に読了。
17

「神狩り」山田正紀
続けて読んでみた。SF研MLで"「果てしなき流れの...」、「幼年期の終り」と「神狩り」を並べて評する小島秀夫ってどうなの?"旨の先輩コメントがあって、いやそもそも「三体」なみに面白かったっけ?というわけで。デビュー作(1976年)の粗削りな感じ、挑戦的なタイトル...、こんな話だったっけ。折角の言語ネタも未消化で超能力モノにすり替わるし...、このレベルなら「サイボーグ009 神々との戦い篇」(1970年)、「
ギルガメッシュ」(1976年)の方が遥か高みを行っている。中身覚えてないわけだ。
15

「三体」劉慈欣(大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳)
英題「The Three-Body
Problem」。文革の中でリンチを受け死にゆく物理学教授の姿から話は始まり、現代に舞台は移り科学者たちの連続自死の調査に巻き込まれる壮年のナノテク研究者を中心に、謎は人類社会の裏で暗躍する秘密結社へと...。こう書くと確かに「神狩り」っぽいなあ。実際の印象は、小松左京(虚無回廊)×ハイペリオン→いしいひさいち(笑)in
ゲームSFアンソロジー。日本SF第一世代を思わせる既視感、リーダビリティーも高く(大森氏訳)、シリアスな雰囲気ながらベイリーばりのバカSFの系統にも思え(褒めている)、確かにこれは面白すぎる。
続編(「黒暗森林」)を早う!
