This is POP!! | ©gaburu
Next Month08 '21
29
「わたしたちが光の速さで進めないなら」キム・チョヨプ(カン・パンファ、ユン・ジョン 訳)
韓国のSF作家による短編集で、昨年邦訳出るなり絶賛だった一冊。文庫になるのを待つつもりだったんだけど、「世界SF作家会議」放送での喋りと改めて単行本で読み直しての印象から、やっぱり今読んどこうということで。本書向けの書き下ろしを最後にもってきた全7編、いずれも素晴らしいのひとこと。とにかく素晴らしい本です。それぞれ鍵になる科学技術的アイデアがあるんだけど、それらが極ふつうに使われている世界の中にいるいち個人の感覚でフラットに語られる物語。個人的にはテッド・チャンと比肩するくらいの衝撃でした。高山羽根子の初期(「うどん...」とか)が近いような、でもしっかりサイエンスフィクションにもなってる...この感じは今まで読んだことない。寓話的な「巡礼者たちはなぜ帰らない」、言語もの「スペクトラム」、全く新しい視点のエイリアンもの「共生仮設」、技術のライフサイクルと人間を描く表題作、現代的な違和感を少しホラー風に「感情の物性」、家族と記憶の在り方「館内紛失」、宇宙に向かうSFへのアンチテーゼである宇宙SF「わたしのスペースヒーローについて」、いずれも人のつながりと技術革新のアンビバレンツさ..現代的な憂鬱だったり窮屈さが醸されていて、その視点の独特さと、本人見た目と喋りの感じとのギャップもまた萌える。著者解説でアイデアの出どころに触れていて、これもまた面白い。これから何度も読み返すことになるだろう座右の一冊。
28
「この地獄の片隅で - パワードスーツSF傑作選」J・J・アダムズ編(中原尚哉 選・訳)
原題「ARMORED」、「不死身の戦艦」と同じ編者による2012年刊のパワードスーツ・テーマのアンソロジー。原書の23編から中原氏選の12編を収録。全編書き下ろし初訳。そんなニッチなテーマで...と思って読んだら、基本どれもパワードスーツがネタ自身や重要な小道具で登場。テーマだけにミリタリー系が多いんだけど、最も面白かったのは、猫SFでもあるジャック・マクデヴィッド「猫のパジャマ」。これぞSFな問題解決ものなうえに登場人物2名の掛け合いも絶妙。副官の言葉遣いによるキャラ作りが巧く、訳者の力量に依るところも大きい気が。ジュヌヴィエーヴ・バレンタインの深海潜水用スーツものが自選かな。読んだことのある作家はレナルズとロワチーくらいなので、馴染みのない名前を色々読めたのはよかった。
22
「エトルリア人」ドミニク・ブリケル(平田隆一 監修/斎藤かぐみ 訳)
原題「Les Étrusques」、日本語副題「ローマの先住民族 起源・文明・言語」、これもフランスのエトルリア研究者による総説、2005年刊。「ラウィーニア」にも登場するエトルリアに関する当時の研究成果を解説したもの。副題の通り、起源、盛衰、そして言語研究の挑戦について順にまとめている。「ローマの起源」が、マニアックにローマという都市自体の成り立ちに偏ってたのに比べて、エトルリア文明自体を描いている本書は、地中海文明史からローマ帝国の勃興までをカバーすることで、ダイナミックな古代史として書かれる。面白い。ローマやギリシアによって記述されたエトルリア史を、恣意的なテキストとしてさらに分析しているところも、そういうのが読みたかったのよ..って感じ。邦訳で140ページ弱にまとめているので、エトルリア史の概論だけって感じだけど、まず知りたいところは押さえられる。ローマに吸収され消滅するまで約5世紀強、(北アフリカも含め)地中海とヨーロッパ内陸の交易の中心として栄えていくイタリア半島を軸とした文明間の力学が垣間見れるので、もっとこの辺知りたくなるんだけど(今度はヨーロッパ内陸の動きについての最近の理解とか)、キリが無くなってしまいそう。「ラウィーニア」は、最近の研究も踏まえた上で書かれていることがよくわかった。
21
「ローマの起源」アレクサンドル・グランダッジ(北野徹 訳)
原題「Les orinines de Rome」、日本版副題「神話と伝承、そして考古学」、フランスのローマ史研究者による2003年の総説的テキスト。「ラウィーニア」を受けてエトルリア関連の書籍を入手するに当たり、ローマの起源に関する研究にも目を通しときたいという理由でちょうど良さそうなコレを同時にポチった。章立てはわかりやすく、まずは神話のまとめ、ついでデスクトップでの研究の成果、そのうえで考古学の近年の成果を踏まえて、前8世紀から前5世紀までに起こったローマの国家成立過程を示す。日本版には年表が巻末に入っていて、現時点でのコンセンサスはこれを見れば...ということですが、本書の主題としては神話時代のローマ生成過程の研究の困難さとその中で組立てていく論理や手法を解説するといったところにありそう。んで「ラウィーニア」との関連で言えば、青銅器時代(ル・グインが再現したラティウム時代)からの繋がりにそれなりの紙面が割かれていて、想像力を働かせつつ読むことができた。元がフランス語だからか、また基本的にある程度この分野に興味ある人向けなので固有名詞が多く、読み飛ばしてる部分も多々あり。なので、本書の良い読み手とは言えません。

夕方、長女が都内学生向けワクチン接種で青山学院大学まで行くというので、道案内。表参道で下車して地上に上がるのは随分久しぶりだ。接種は、正門入場から出てくるまで、ものの20分強でさくっと。
20
「不死身の戦艦 - 銀河連邦SF傑作選」J・J・アダムス編(佐田千織・他 訳)
原題「FEDERATIONS」、2009年刊のアンソロジー。レナルズ、ビジョルド、ユーン・ハー・リー、スコットカード、マキャフリー、ソウヤー、スティール、ヴァレンテにシルヴァーバーグ...全16編を収録。汎銀河時代を舞台にした短編集ということなんだけど、統一感はあまり感じられず("銀河連邦SF"と言ってよいのかもよくわからん)、ほんとに色んなタイプの話が詰め込まれてる。好みは、レナルズのポストヒューマンもの、ビジョルドの宇宙戦闘後の死体識別検査官をネタにした異色のスペオペ、ル・グインを思わせるメアリー・ローゼンブラム「愛しき我が仔」、ちょっと「バビロンまで...」を思い出したスティールの与太話、アラン・ガードナーの馬鹿SF「星間集団意識体の婚活」(草野原々か!)...これ書きながら改めてそれぞれどんな話だったか見直してると、どれも再読するとまた違った感想を持ちそう。読んでる間は玉石混交という気がしてたけど、レアな作品が収録されてるので、将来また再読したい。
16
出社。盆休み明け初日の朝から中期計画中間報告の説明。歳を取る毎に実家空間から日常への復帰に体力を要するというか...実家に帰る度に老け込んでいっている気がする。
仕事の合間もついついアフガンのニュースをチェックしてしまう。日常が国際社会の中で政府という脆弱な基盤の上で成立してることを痛感させられる。
15
米軍撤退によって風雲急を告げるアフガニスタン。昨日マザリシャリフの陥落が報じられて、今朝はジャララバード制圧を聞いたばかりなのに、夜には戦闘もなくカブールが落ち政権委譲とのニュース。数週間であっという間に全土がタリバンに征服されてしまった。なんともあっけない。中国政府とタリバン指導部の会談がちょっと前に報じられたけど、新疆ウイグル弾圧との関係は?絵に描いたように中国の中央アジア覇権が出来上がるのだろうか...(手を出す相手が悪い気も)。歴史好きとしては興味が尽きない。しかし数週間前まで(下手すれば先週くらいまで)は都市部で普通に仕事をし学校に通ってたような市井の人々が、あっという間に日常を失ってしまうのは遣る瀬無さ過ぎる。
(8/17追記:政権委譲が行われたわけではなく、ガニー大統領が国外脱出したので、事実上タリバンが全土掌握した状態というのが正しいみたい。)
14
12日の朝に母の一周忌と初盆の法要があるので、11日昼過ぎまで会社に出て夕方のフライトで宮崎に帰省。父が1週間ほど前に自転車で転倒し左手に大怪我を負っていることがわかり、法事どころではなくなる。(法事は無事に済ませたけどね) 昨日13日は疲れが出たのか朝から吐きそうなほどの頭痛で朦朧としながら近所のドラッグストアでバファリン買って昏睡。市販の頭痛薬で治るくらいのもんですけどね。気圧のせいかなー。てことで今日は左腕から手指の浮腫が快復してきた父と墓参り、夕方の便で帰京。宮崎の雨がようやく上がってきたと思ったのに、東京はそこそこの降雨じゃないの。WにLINEで「さすが雨男」と揶揄される。
08
「ラウィーニア」アーシュラ・K・ル・グウィン(谷垣暁美 訳)
2008年刊、ル・グイン最後の長編。文庫になったので...というかル・グインが読みたかった。物語の力をもう少し欲しかったというか、「複眼人」からの流れでそういう気分。(ちなみに東台湾のガイドブックを買った。コロナ禍明けたら行く。) ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」、その結末を、叙事詩の中ではほぼ名前だけの最後の妻ラウィーニアを主人公に描いたもの。考証と想像を交えた古代イタリアを舞台に、登場人物という記号ではなく人々の生活、社会の有り様を蘇らせ、フィクションとしての叙事詩を見事に完結させつつ物語を普遍化している。著者あとがきにもあるル・グインの意図は十分に果たされているのではないか。フェミニズムと絡めて語られることも多い作家だけど、この最後の長編では、寓話的な色は感じられず、むしろジェンダー含め人の価値観がその時代や社会...そこに生まれいづることで偶発的に生じる立場によって編まれるという死生観を描いている気がして、枯れた味わい含め御大の到達点なのだなあと感慨しきり。言葉にされたものと言葉にされないものの話でもあって、ちょうどある医療技術のアナログとデジタルの話を先週部下としていたことと繋がったり。邦訳も素晴らしい。
高校時代のクラブ活動で、エトルリアについて色々調べていたのを思い出した(あとスキタイはかなりハマった)。あれから40年近く経つので、当時は謎とされていたエトルリアについても色々わかってきてることがあるんだろうな...と世界史好きの血が湧いてきている。
01
島改造とオリンピック男子ゴルフ最終日観戦。銅メダルは7人でのプレーオフ。松山脱落直後にNHK中継終了し呆然、ばたばたとTVerの実況探しあてて最後まで。 台湾の潘政琮が制した。面白かった。

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