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一昨日届いた「三体Ⅲ」を読み始める。コタツをあげ、毛布類の洗濯に近所のコインランドリーに往復するなど。予約注文してた画集も何冊か。寺田克也の最新画集にマイク・ミニョーラのスケッチ集、山下しゅんやの「ガールズ&パンツァー画集」が順番に。ミニョーラの画集はコロナ禍で再開した画業といっても
Twitterに載せてた鉛筆スケッチを集めたもの。残念ながら権利モノのキャラクターに関するやつは入っていない(円谷とか東映/石森とか、マーベルとか)けど、ペンタッチが見て取れる見事なクオリティーで、独特の人体パーツの捉え方が判って面白い。寺田克也は相変わらずというか、モチーフにあんまし幅がないので、このへんで追いかけるのを終わろうかと思っている。タイミング的に「母になる、...」のイメージに合って、読んでるときに届いてたらまた違った印象だったかも。山下氏のは届いたばかりでこれから見ます。
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「母になる、石の礫で」倉田タカシ
第二回ハヤカワSFコンテスト入選作を単行本化のために大幅改稿したもの。2015年刊。これ
2年前の神田ブックフェアに行ったときにハヤカワのワゴンで購入のサイン本。硬派なポストヒューマンSF。3Dプリンタ技術が進化しほとんど全てのものを出力できるようになった近未来、プリンタ技術の倫理規制が厳格化される中、さらなる進化を目指したマッドサイエンティスト集団が地球から小惑星帯に逃亡して数十年。科学者集団はさらなる人類の進化を実験し続け、数世代の改変人類を作ったが...。第2世代の3人と第4世代唯一の生き残りが、地球から小惑星帯への侵出が起こったことを機に、始祖と呼ばれる脱走科学者集団への再度の反乱を起こす。特に説明なく第2世代の主人公一人称の主観で語られるので、そこから背景過去現状を読み手が理解しなければならず、相当のSFリテラシーが求められる。ヒトとはなにか?みたいな大上段に一気に行くのではなくて、多様性とはなにか?ジェンダーや"母"とは?さらに深読めば"家族"や人間社会の構成単位についての考察が織り込まれて、ハードコアなSF仕様に現代的なテーマが座っているのが素晴らしい。読者を選ぶとはいえ、リーダビリティがこの単行本のクオリティだったら、「ニルヤの島」を越えて大賞受賞だったんじゃないかな。
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A Big Day。なにか自分にご褒美を...とも思うけど、欲しい物がなんも思いつかん。
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「過ぎにし夏、マーズ・ヒルで」エリザベス・ハンド(市田
泉 訳)
原題「Last Summer at Mars
Hill」。米国作家のネビュラ賞、世界幻想文学大賞受賞作ファンタジー4作を収録した傑作選(日本独自ですかね)。幻想文学...とわかりやすいのは表題作(メイン州の海岸にあるスピリチュアリストのコミュニティーが舞台)だけで、中編「イリリア」は演劇を題材にしたあるいとこ同士の恋愛物語、「エコー」は極短く独居視点からの世界の終わり、「マコーリーの...」は過去の同僚が集まって末期癌の知人へのギフトのためにある映画を撮るある夏の出来事を描いたもの。謎や世界の何かを垣間見ようとする視点はなく、少し特殊な環境での人の営みや感情のゆらぎを描き出す作風。それぞれ受賞歴に相当するほどのものか、と思わんではないけど、この感じが好まれているということなんでしょうか。散文描写が映像的で、音楽ネタも上手に挟まれてて、落ち着いた筆致でイマジネーションを広げさせるのは巧い。ルー・リードはともかく、ビー・バップ・デラックスが出てくるのには驚いた。作家の世代がもっと進むと、この辺の小道具はピンとこなくなるんだろうな...。
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「超動く家にて」宮内悠介
バカSF多めの短編集。ショートショートから短編を16編収録。2018年に出てた単行本の文庫化、早速...単行本は積読中で、このパターン多いな。デビューの頃から近作まで網羅されてて、一部はテーマアンソロジーに収録されてて読んでたものとかもぽつぽつ。アイデア一発的なものが殆どなんだけど、ちゃんと読み物にする技と、モノによってはオマージュとしての文体コピー(「クローム再襲撃」!)もあって、サクサク読めるし楽しい、満足の一冊。一話一話紹介したいくらい、粒揃ってるんだけど、ショートショート・ミステリー「今日泥棒」、歴史もの?小編「犬と猫」がワタシ的には特に印象強い。レコードで言うアルバム未収録曲集みたいな感じですかね。各話の作者解説が最後に載ってて、これを読後参照しながら読むと尚良し。あとがきが酉島伝法、これも好い。
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「シオンズ・フィクション
イスラエルSF傑作選」シェルドン・テイテルバウム&エマヌエル・ロテム編(中村 融 他訳)
竹書房、ここ数年面白い本を出してきてる。去年10月に出た当時、一部SF者の間で話題になったイスラエル出身作家のスペキュラティブ・フィクションを集めた英語アンソロジー(原題「Zion's
Fiction」2018年刊)の翻訳。ロバート・シルヴァーバーグの序文で始まり16短編を収録。最古のものは1984年(「シュテルン-ゲルラッハのネズミ」ロテム)、主に2000年代が中心。最後に編者共著による「イスラエルSFの歴史について」。最も新しい2015年作ケレン・ランズマン「アレキサンドリアを焼く」ですら、70年代の英米SFを彷彿とさせる話で、正直、イスラエルSFに触れる以上の興味深さ(おもしろさ)は無かったけど、その「歴史について」が面白く、この70ページほどに2日ほどかかってしまった。1940年代のホロコーストと建国...シオニズムから、イスラエルにおける文学と政治体制・政治思想、第四次中東戦争での挫折後の労働党敗北による社会主義的文化統制体制の変化からのフィクションの開放。なので、イスラエルSFの歴史は1980年代からということになるらしい。仕事でイスラエルの企業に関わることが多く、SF・ファンタジーからみた文化史と政治の関係を面白く読むことができた。
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「一度きりの大泉の話」萩尾望都
話題になっている萩尾望都の自伝...といっても、漫画描き始め(1963年、中学2年生の頃)から始まり、一戸建てを買って独立する1975年頃までを中心にした回想録。中心は、竹宮恵子との同居のため上京してから、その住処が"大泉サロン"と呼ばれてる少女漫画家の梁山泊となってた"大泉"時代、その終焉とその顛末についての回顧。萩尾とともに大泉サロンの中心だった竹宮とそのブレーンになる増山法恵との蜜月からの一方的ないわば絶交宣言が、トラウマとなり健康をも蝕むようになったという...封印していた記憶を、本書のために行ったインタビューを元に萩尾が大幅に手を入れて書籍化。突然の絶交宣言以来、竹宮とは一切の関わりを避けてきた(作品も全く読んでいない)というから、そのトラウマたるや深刻なもので、数年前の竹宮の自伝出版以来、大泉時代の企画問い合わせが引きも切らず、ここでその手を拒絶している理由を説明し、今後一切封印することを宣言するという趣旨。"大泉サロン"、”24年組”なんてものは無かったと主張するが、前者は確かに在ったのだなあ...と、詳細に書かれる当時の交友関係(本書前半)を読むと、感じる。佐藤史生や山田ミネコも重要人物として出てきて、特に佐藤については多く頁を割いており、リスペクトが伺える。通底するのは、創作の厳しさと作品に対する責任について。
自分にとって、萩尾望都といえば「スターレッド」だし「銀の三角」だしで、本書の時代への関心は作品含めてあんまりないのが正直なところ。「百億の昼と...」のあと光瀬龍からのオファーがあったにも関わらず、当時の竹宮が光瀬に関心があったという噂を聞いてすべて断っていたというエピソードには、愕然とした。
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「機巧のイヴ
-帝都浪漫編」乾緑郎
新世界覚醒編が1892年、で今の所最終巻(いちおう此処で完結を見ている)の本書は1918年(前編)とその10年後(後編)からなる。疑似大正時代を舞台にして、主人公である女学生の、前巻との因縁を背景に持つ青年との悲恋を、大震災と疑似甘粕事件(大杉栄謀殺)にからめて描く前編、ここで切りますか!ってところから、疑似満州を舞台にした後半は終盤畳み掛ける展開で伏線を収束させ、エピローグへ。謎はまだ残っているものの、大森望も巻末解説冒頭で書いてるとおり、一度ここで"ほうっと長い息を吐き出す"。読了後、
NOVA夏号に収録の番外編を再読。まだ先を書くのか(架空歴史ものとしては世界大戦、冷戦とその終結...と近代~現代でまだネタは尽きないし)、書き足りなかったエピローグの落とし前をつけたのかはわからないが、続編に期待反面、これで完結でも自分は納得。しかし、表題にある"イヴ"の扱いが話の上でのガジェット化してるのは、むしろ面白く、このシリーズを独特のものにしている。「
マーダー・ボット・ダイアリー」の対極というか。
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「機巧のイヴ
-新世界覚醒編」乾緑郎
前巻から100年ほど時代が空いた南北戦争奴隷解放後の疑似米国が舞台。疑似シカゴでの万国博覧会、電気の普及、一方で疑似日本国は疑似中国大陸への侵出と、現実の色んなイベントをリミックスした架空世界の設定自体が面白い。伊武、天帝のオートマタ2人を軸に、大陸での戦争で病んでしまい新世界に逃げるようにやってきた日本人探偵が主人公。連続殺人鬼に、高度な武術を身に着けた少年、天才発明家眼鏡女子と役者にも事欠かない。冒険活劇や陰謀もの、エスエフのどれにも振れず、いい塩梅に架空歴史ものとしてできてるのが秀逸。全体的には映画的で、ディックっぽさ(というかブレードランナーぽさ...人と人に似たものとの違いとは...)を漂わせてた前巻の奥ゆかしさはないが、このB級感は楽しい。
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