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8 Track Sound System/ Fonda 500
(The Village, 1999)
うららかな牧場録音(?)をシュミレートした、仮想田園ポップス。そこはかとない動物の声やチープな電子音をバックに、思い出したかのようにアコースティックなギターに裏声気味のヴォーカルがのる。かと思えば、ピープ音ぴゅんぴゅん飛び交うアナログシンセ・サイケあり。少しエフェクト効かせたエレキ・ギターで90年代風に走ってみせる風あり。
ピコピコとアナログ楽器(ギター、シンプルなドラムに始まり、瓶かコップ叩いた音とか...)、それと勿論動物声がなんともいい具合に混じりあった、これもある種テクノポップと言えるのかも。
ライナー見ると、
フォンダ500っていうのは個人で、友人達とオープン録音(スタジオ、ベッドルーム)したものみたい。ライナーに絵が載ってるPZM
Precision Fidelity Open Microphonic
Systemつうのを使って、アナログ録りしたってことですが...。丁寧な作りの反面にあるさりげなさがまた堪らんです。
日がな一日ごろごろしたい時に、少し抑え目のボリュームでBGMに。そういう無為な暇つぶしを愉しむとき。あるいは、くそ忙しいとき、ストレス溜まりまくってるときに、そういう無為な時間を一瞬でも頭の中に創り出す、そういう使い方もできる「時間の流れを変えてくれる」アンビエント・ポップス。こういう、アナログで電気的かつアコースティックで遊び心溢れる、って感じ。最近増えつつあるような...。(この間の「
Gomez」とか、「
Beta
Band」とか) いい傾向。
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Oar/ Alexander Spence
(Columbia,
1969)
モビー・グレープを脱退した1968年、の12月3日、
スキップ・スペンスことアレクサンダー・スペンスは、テネシーはナッシュビルのコロンビア録音スタジオに、バイクで到着。ソロアルバムのレコーディングを同月12日まで行って、28曲を録る。このうち12曲がカットされ、翌年1969年、コロンビアからリリース。ボーカル、ギターは勿論、ベース、ドラムそしてプロデュース全て一人で演った、混じりけなしの、そして唯一のスペンスのソロアルバム。
実はこの間、
このトリビュート盤を紹介しました。その時は、この原盤、未聴だったんですが、その直後、何故か通販に使ってるアマゾン・コムの個人向けお薦めリストにいきなり載ってて即購入。ただ、オリジナルと言っても、このCDには、原盤の12曲に、残りの録音を全て(16曲)収録。スペンスがこの世に残したソロレコーディングの全てが収められてることになる、好リイシュー。
アメリカのシド・バレットと言われる人、ですがバレットのソロ・アルバムの病んだ歪みと違って、もっと自然でフォーキーなサイケデリック・ロック。マルチプレイヤー、シンガーソングライターとしての天才が遺憾なく発揮されてる充実した内容。(実際には、半年の入院後に録音。その後また入院。二度とシーンには戻らず昨年死去。その辺がまたバレットと重ねられるんでしょうが...)
モビー・グレープでもサウンドの要だった、エッジの効いた太く硬いギター・トーンが、フォーク、カントリー(ナッシュビル録音ですからねえ)、ブルース、ロックンロールを基本にした楽曲を、どうしようもなく「ロック」たらしめてる。白眉はやはり原盤の終曲「Grey/Afro」の幻惑的なサイケデリック・サウンド。これ、全部一人で演ってるんですからねえ。録音時、若干22歳(写真では22歳には見えんけど...)、神に与えられた才能という意外に言いようが無いです。
モビー・グレープ好きは無論、サイケデリック・ロック好きは当然、ギミックなしのピュアなロックが聴きたいなら、探してでも聴く価値あり。
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Liquid Skin/ Gomez
(Virgin, 1999)
レイドバック(というか懐古趣味)と揶揄される向きもあるんじゃないかと、想像もするんですが、巷での評判はどんなもんだったんでしょう。これ滅茶苦茶凄い傑作じゃないですか。
そもそも出張先で入ったレコ屋で、ジャケ絵に惹かれて「たまにはイギリスの最近のバンドでも」と軽い気持ちで買ったのを、部屋に帰って聴いて仰天(言葉どおりに天を仰いだね、ほんと)。次の日には無理やり時間作って1枚目を買いに走りましたからね。
音。凡百のイギリス若手ロック・グループと異質な、60年代/70年代のアメリカ西海岸ロック・サウンドへの憧憬を感じさせるスケール大きなメロディー。素直にアンプリファイされたトーンを基本に、時にはアコースティックな響きそのままな、また時に少し歪ませたギターの音。パーカッションを効果的に使ったリズムの浮遊感。メイン・リードシンガーのベン・オトゥールを中心としたボーカル3人の絶妙なのコンビネーション。遊び心ににやりとさせられる、曲中/曲間のSE。地面からぐんぐん伸びて雲の上に突き抜けるような、地に足がつきながらもふわふわとした心地よさがある、独特のサイケデリック。この60年代末期の空気感へのオマージュ(フェイクtもいう)に満ちた飄々としたサイケ感って、ベックにも通じるかな。
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Big Enough To Disappear/ Moris
Tepper
(Candlebone Records, 2000)
キャプテン・ビーフハートのマジックバンド後期に、ギタリストとして活躍した、
ジェフ・モリス・テッパー。以来約20年の音楽家稼業初のソロアルバム。いや、まあ、マジックバンドのなんて言ってもそそられる人はあまり居ないでしょうが、
トム・ウエイツ、
フランク・ブラックのギタリストとして活躍と聞けば少しは興味も湧くのでは?
しかしそんな肩書きは無視しても、これほんと良いアルバムです。
音は、一言で言えば「捩れの効いたフォークロック」。そう纏めてしまうと、80年代以降ありがちなアメリカのカレッジ・チャート系の凡百バンドを思い浮かべてしまう向きもあるかもしれませんが、練られたアレンジ(捻り方に無理が無い)も然ることながら、曲がいい。意外に素朴で耳に残るオーソドックスなフォーク・カントリー調のメロディーもあれば、マリンバを効果的に使ったちょっと不思議な曲、ブラスバンドで始まる葬送曲風まで、一聴して思い浮かべる景色は草原を進んでいく道化の楽団。ベースラインを奏でるチューバがそういう雰囲気を出しているのか。さらにテッパーのボーカル、かなりいい味。所謂ボブ・ディラン似の皺枯れにどことなく飄々とした風。ギタリストとしてよりもシンガー・ソングライターとしての才能を全編に漲らせた傑作。
キャンパー・ヴァン・ベートーベンとか
ポイ・ドッグ・ポンダリングとか...。そういうバンド名につい食指が動く向きのみならず、フォーク・ロック、カントリー・ロック好きなら是非お試しあれの一枚。
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