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'00.04
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More Oar/ V.A. a tribute to Skip Spence album
(Birdman, 1999)

モビー・グレイプのギター/ヴォーカル/ソングライティングで知られる、スキップ・スペンスのトリビュート・アルバム。"アメリカのシド・バレット"と言われた氏唯一のソロアルバム「Oar」を、多彩な顔ぶれが1曲ずつリメイクという趣向。
のっけ、アコースティックなセットで掠れた裏声に「渋い。誰これ」と思ってクレジット見ると、ロバート・プラントロビン・ヒッチコックは弾き語りで、ナチュラルなサイケぶりを発揮してるし、トム・ウェイツもダウンバイロウな濁声ブルースを。渋めあるいは飄々とした老練な前半。後半は、フライング・ソーサー・アッタクが代表する、最近のバンドによるリメイク。多分オリジナルの雰囲気は殆ど無視。そんな中、頭抜けてるのはやはりベック。当時の西海岸ロックサウンドの空気感(といっても、あくまで自分と同じ“後聴き者“の感じる)を絶妙に切り取ってて、天才を発揮。私自身「Oar」は聴いたこと無いので、オリジナルに対してどうこうという聴き方は出来ませんが、アルバム全体の空気の整合間、アーティストの配置と、別にトリビュート盤と知らなくても素晴らしいです。
ところでそのスペンス氏はソロアルバム発表後、精神を病んでシーンから姿を消してしまいます。昨年亡くなったとは、全く知りませんでした。
 
Vintage/ The Very Best of Moby Grape
(SONY, 1993)

モビー・グレイプといえば、長らく伝説のバンドとして知られてました。曰く、「テレビジョンはモビー・グレイプを模して満月の晩に解散した」とか、「はっぴいえんど、の元ネタである」とか。以前はアルバムの入手結構困難だったと記憶してるんですが、決定番的なベストアルバムが92年にリリースされてます。
ライナーに寄稿している細野晴臣氏自ら明かしている様に、「バッファロー・スプリングフィールドとモビー・グレイプこそが…」な訳です。例えば、「はいからはくち」(Hey Grandma)「夏なんです」(He)など、原曲がそのまま判るような直な影響も含めて。この乾いて、リリカルで、少しサイケデリックなな西海岸サウンドへの憧憬が彼等に影響与えたのであろうことは、一聴すればしみじみと判る筈。 いや、はっぴいえんど云々せずとも、このサウンドが醸す空気って、今聴いても憧憬を感じずにいられない、独特の美しさと猥雑さがあります。
興味持った人には、アルバムを丹念に追うよりも、未発表テイクやライブ音源も収録されたこのベストを真っ先にお薦めします。ライナーノーツも秀逸。ホソノ・ボックスを買っったけど、モビー・グレイプはまだ聴いたことが無い人は、是非聴くべし。
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Time's Up/ Buzzcocks
(Mute, 2000)

初期UKパンクバンドの中で、セックス・ピストルズと同様、ある意味ではそれ以上に重要なバンド..バズコックス。未だ現役のこのバンドの1977年発表デビューシングルが「Spiral Scratch」。 このシングルは、完全インディペンデントで制作・販売された最初のパンク・レコードで(制作費は友人達から掻き集めたとか)、歴史的にも非常に重要ですが、何と言っても、マガジンの中心人物となるハワード・ディボートが在籍時にリリースされた唯一の音盤として貴重なもの。その「Spiral…」録音セッションで収録された全曲を収めたのがこの「Time’s Up」。既に海賊版として出回ってたものが一度正式にリリースされたことありますが(1991)、今回は、1976年/マンチェスターでのバズコックス初ギグの映像が、エンハンスドCD仕様で収録されてると言う、信じられないおまけ付き。
えー、データとしてはそんなとこですが、そんな背景(昔話)はどうでも良いいんですよ。「オルガスム・アディクト」がディボートのヴォーカルで聴けるとか、10曲目のブルース・カバーで、ピート・シェリー率いるディボート脱退後のスピード感溢れるリズムとギターのコンビネーションが既に確立されてるとか...聴き所満載。無論「Spiral…」の4曲も一発録りそのままで収録。バズコックス/マガジン好きには鼻血もん。 勿論、最初期のパンクが持ってた「鬱陶しさへの蹴り一発」というアティテュードは、今も十分共感できる筈。パンクを知らない人にこそ是非聴いて欲しい傑作リイシュー。
ブックレット冒頭に載せられてるディボート脱退の際のコメント、「一度は不健全でいて真新しかったものも、今は小奇麗な使い古しの帽子みたいになっちまった。」って一言が、次に彼が結成するマガジンに繋がっていく訳です。