This is POP!! | ©gaburu
'00.05
28
Oedipus Schmoedipus/ Barry Adamson
(Mute, 1996)

マガジンニック・ケイブ&バッド・シーヅでベーシストとして活躍したバリー・アダムソンのソロアルバム。ベーシストのソロというのは、意外に楽器演奏中心よりもサウンド・クリエイトに重心を置いたものになることが多い一方で、それが成功するケースというのも少ないもの。で、このアダムソン氏の場合はというと、一貫して架空のサウンドトラックというテーマで作品出してて、とにかくその音楽だけで世界観まで描き上げてしまう音像構築力の凄さが圧倒的。ベーシスト云々の肩書きは全く不要の、コンポーザー/アレンジャー/プロデューサー。
ソロ第一作の「Moss Side Story」は、モノクロのジャケットから伝わってくるようなひたすらダークで深閑とした音。その後ポップだけど一寸とっちらかった印象の「Soul Murder」(「007のテーマ」が秀逸)を経て、このアルバム(多分4作目)はバラエティーに富んでいながらも、全体の流れが練られてて、さながら音楽で小説を作ったかのようなバランス(起承転結)のよさ。映像を前提とした所謂映画のサントラと違って、アルバムを聴いてるだけで、映像よりむしろ直接ストーリー(ジャンルで言えば「ハードボイルド」系のミステリー かな)が喚起されるような完成度。音自身は、ストリングスやヴァイブ、オルガンなんかを使ったジャズ色強いアンサンブルが、曲によって緩急使い分けたブレイクビーツにのるという趣向。ジャズ色といっても、カクテル・ラウンジ風のポップな感じ(往年のジミー・スミスとか、バート・バカラックとか)から、タイトルからしてべたなハード・バップ風「マイルス」まで色々。全編にわたるキッチュ(B級)な味付けが堪りません。
衝撃的なジャケットの写真とタイトルから受ける印象より、もっとポップで洒落た感じ。ハードカバーのミステリー小説1冊買うような気持ちで、聴くと良いかも。
20
The Night/ Morphine
(Dreamworks/ Ryko, 2000)

1992年にメジャーデビュー(1st「Good」)し、所謂ロックバンドとしては一風変わった楽器構成で脚光を浴びたモーフィーン(モルヒネ)。ボーカル・ベースのマーク・サンドマンと、ドラムのビリー・コンウェイ、そしてサックスのダナ・コリーというトリオ。ギターレス、2弦しかないベースを弾くボーカル、ジャズとブルースとロックの新しい融合形。そんなキーワードで同時期に現れたアメリカの新世代ブルース・ロック(ジョン・スペンサーとか)を括ろうとした、当時のメディアの喧騒を意に介せず、飄々とコンスタントにぐっとくるアルバムをリリースし続けてきたバンド。この「The Night」は彼等のラスト・アルバム。そして、図らずも、昨年7月ライブの最中に急死した、サンドマンへの追悼アルバム。ただ、実質は追悼盤ではなく、実は次のアルバムとして準備していたもので、サンドメン急死時に既に完成していたもの。つまり、サンドメンが次のステップとして意図していた音な訳で、彼の死とは切り離して聴くべき。
タイトでパーカッシブなドラムに、ベースラインをとりながらメロディーを支えるバリトン・サックス。サンドマンの淡々と語りかけ、時に呟くような、それでいて明瞭なボーカル。爆発することなくじわりじわりと、しかし熱を帯びた、"ソウル"ミュージック。「レイン・ドッグ」辺りのトム・ウェイツが達していた、独特なブルースの境地に近い雰囲気も感じる。
今までのアルバムと一聴して違う特徴は、ギターやハモンド、女性コーラスなどをSEとして巧妙に使ってること。そして1マイクのアナログ録音にも聴こえる、生な音響。彼が、トリオに拘りながらも、より実験的でアコースティックな音響指向のビッグバンド的サウンドを考えていたのではないかと思える。雑多なジャンルを組み合わせて新しいものを生み出すという潮流とは全く位相の異なる、自らのアンサンブルを深めることで境界を飛び越えてしまった希少なバンド。いままで聴いたことのない人は無論のこと、聴いたことはあるけどその時はピンと来なかったという人も、是非聴いてほしい傑作。
13
Agram/ Lena Willemark
(ECM, 1996)

スエーデンの女性ボーカリスト、フィドル奏者、ソングライターのレーナ・ヴィッレマルクが、同じくスエーデンのトラッド演奏家、アレ・メーラーと共演した、スエーデン・トラッドの録音盤。この2人の共演は19年の「NORDAN(ノルダン)」が1作目で、この「アグラム」は2作目。
とにかく、ヴィッレマルクのボーカルを是非一度聴いて下さい。凛と力強くてかつ、しなやか、さりげなく技巧的。圧倒的です。またアルバムタイトルにもなっている2曲目「Agram」(燕麦/オートムギの意)はヴィッレマルクの作曲。朗々としたボーカルが、メーラーのダルシマーに乗る、その名の通り、地の広さと強さを感じさせるようなメロディーと演奏。もう1つの彼女の作曲(10曲目「Blamairi」 (The Blue Moor))は、暮れなずむフルートと透明なソプラノサックスに、静かにヴィッレマルクのボーカルが重なり合う、清しさ。
一方で、メーラーのマルチ楽器演奏家、編曲の才も注目。マンドーラ(北欧琵琶)からフルート、トランペットまで駆使する多芸ぶりもさることながら、軽快な弦楽器のインストルメンタルから、重厚なジャズ風アンサンブル、自らのギターや、フィドルをフィーチャーしたフォーキーな曲まで、トラッドをアコースティックな質感を生かしながら多彩でモダンなアレンジ。また、精緻で表現力芳情なアンサンブルを作り上げてる演奏家たち(ヴィッレマルク、メーラー含め総勢6人)の能力にも圧倒されます。(12曲目「Elvedansen」(妖精のダンス)なんかはその最たるものでしょう) アレアとかヘンリー・カウとかの、トラッドベースのユーロロック/プログレ・サウンドが好きな人も結構いけるんじゃないかなあ。
ジャケット写真はモノクロの寒そうな空ですが、全体の雰囲気は所謂「暗く重い」印象はありません。寒い冬に暖かい部屋で聴くも良し、暑い夏に聴いて北欧の短く涼しい夏に思いを馳せるも良し。北欧の空気と色に引き込まれること間違いなし。
06
A Collection/ Martin Carthy
(Topic Record Ltd, 1999)

最近はまってるのが英国フォークなんですが、そのきっかけになった1枚がこの、マーティン・カーシーの60年代のベスト盤。 この音盤には、サイモン&ガーファンクルのカバーで知られる「スカボロー・フェア」も収録されてますし(曲自体は英国の有名な古曲。ただ、S&Gのカバーの元になったのはこのカーシーの演奏であるというのは有名な話)、なによりも、70年代初めまでのカーシーのアルバムから、2曲ずつ選曲という、バランスのよさが、自分のような初心者にもとっつき易いです。
基本的には、弾き語りによるアコースティックな音で、曲によっては後述のスワブリックのフィドルが入る構成。とにかく繊細で美麗なギターの音色と、夫々の歌にまつわるストーリーを漂わせるような詩的なメロディーが、じっと沁みて来ます。シンプルに歌い語られるこの叙情/叙事が、カーシーのソロの魅力。古い録音(1965年から始まる)なんですが、リマスターされてて音質も綺麗。殆ど素人の自分が言うのもなんですが、恰好の入門盤ではないでしょうか。
さてマーティン・カーシーという人は、自身のソロ活動は勿論、フェアポート・コンベンションスティールアイ・スパンアルビオン・バンドなどの、60年代末から70年代にかけて隆盛した英国フォークの重要バンドに参加し、英国トラッドの電化に最も重要な役割を果たした人で、現在に至るまで精力的に活動している素晴らしいギタリスト、シンガー。 家族と出した秀逸なアルバムや、これまた重要なフィドル奏者、デイブ・スワブリックとの共演など、90年代もますます盛んでしたし、どんどん紹介していきたいと思ってます。

2000年4月