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「アラビアの夜の種族」古川日出男(角川書店, 2001)
2002年の
日本SF大賞、
日本推理作家協会賞を受賞した"話の話"。奇書「アラビアの夜の種族」の邦訳という形で綴られ、その中には語られる古代北アフリカの英雄譚、それを筆記する「災厄の書」、それを巡るナポレオンのエジプト遠征と時を同じく進行する話...が入れ子状に重なっていく。とにかく、力の入ったメタフィクションで、その勢いには確かに圧倒されるものの、時間と語り部が入れ替わりながら展開する話が行き着く先には、途中から予想してた通りで肩透かしをくらった感じ。
同じくアラビアものでメタフィクションという同じ匂いのする話には、スティーヴン・ミルハウザーの「シンドバッド第八の航海」(短編集「
バーナム博物館」収録)という傑作短編があるけど、こちらの方が(頁数は20分の一ほどだけど)面白いかな...。
最新作の「サウンドトラック」に期待。
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Freeze Frame/ Godley Creme (Polydor, 1979)
ゴドリー & クリーム諸作の中でも、 このアルバムの面白さは図抜けていると思うのだけど如何だろうか。退廃的で諧謔的でいて時にキッチュ。10cc時代ままの偏執的ポップスなんだけど、全体覆う非現実的な悪夢をリアル体験してるような雰囲気。殆ど2人あるいはフィル・マンザネラの三人で創ってるのに聴けば聴くほど凝りまくったマルチレイヤー・サウンド。電気的に歪んだ録音(テクノポップと結びつける所以なんでしょうが、ベクトル全く違うと思うなあ...)は、JG.バラード的な空虚さも醸してるし..。そうそう、 テリー・ギリアム監督の傑作「
未来世紀ブラジル」にそっくりじゃない?
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「SFが読みたい! 2004年版」SFマガジン編集部 篇(早川書房, 2004)
今年も出ました、2003年出版されたSF関係書籍、映像他もろもろのムック本。掲示板にも書いたように、2003年の国内ベストSF(小説)は、
冲方 丁「マルドゥックスクランブル」、海外はテッド・チャンの「
あなたの人生の物語」。とか、まあ国内/海外別に小説ベスト20を選んでたり、評論家、作家による年間5冊とか...まあそういった記事で埋まってる訳ですが、今回の目玉はガイド特集"翻訳短編集/アンソロジーを読もう"でしょうか。"これ必読"的な短編集、アンソロジーが列挙されてて、かなり参考になること請け合い。ここだけコピーしてても良いかもしれない。あとは、例によって各出版社の2004年刊行予定が載るのも読みどころ。早川の翻訳はかなり面白そうだし、河出新社からはベスターも出るらしいし...
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at the BBC/ The Jam (Polydor, 2002)
1977年から81年12月までのスタジオ、ホールのライブ音源収録CD3枚組み。なんかthe Jam聴くのは久し振りだったんですけど、昔はとにかく1st派だったんですが..今回disc2の81年/スタジオB15ライブ(ラジオ放送音源)聴いて、後期のR&B消化パワーポップバンド姿にしてやられた次第。ブルース・フォクストンのベースってやっぱりカッコ良いよね。
一方で、パブロック的な職人技のリズム隊と、曲作りのアイデア溢れるウェラーとの方向性が、この辺(81年末/アルバム"the Gift"後)で臨界点だったのも良く判る。"その後"の本人達の証言も交えた渾身のライナーノーツも一読しながら聴きたいもの。
ところで、コンサート音源は全て前口上から入ってるんですけど、これがかなり良い感じ。これもポイント高し。
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「ヨットクラブ」David Ely(白須清美訳)晶文社, 2003
アンソニー・バージェス(って「時計仕掛けのオレンジ」の原作者ね)も絶賛したという、短編小説の名手、Elyの代表的短編集の邦訳。
名手と云っても、15作品いずれも、突飛な設定や、椅子からずり落ちる様などんでん返しがあるわけでもなく、淡々と展開しながらも..しかしどこか異質なコンマ数次元違う世界にいつのまにか来てしまったような感覚にさせられる...。その辺が凡百の"巧い"作家と違うところ。巻末の解説"もうひとりの異色作家"にはウルトラQまで引き合いに出されてるけど、正に云い得て妙。そんな中で、NY暮らしを描いた「夜の音色」みたいな、一風変わった詩情みたいな作品があるところに、マジ凄い作家やなあ...と感心。
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「Last Exile vol.1」千明孝一 監督(DVD)
テレビ東京で昨年9月末まで深夜放映されてたアニメーションのDVD版vol.1。第一話「First Move」と第二話「Luft Vanship」、加えてパイロットフィルムを収録。なお、マウスパッドにフィギュアの付いた限定版もあり。
漫画「青の6号」を2D+3DCG
アニメーション化した
GONZO企画による作品で、その「青6再生」が掛け声だったと、ライナーに載ってるインタビュー中で監督の千明孝一氏も云ってます。セル画と3DCGの混ざり具合の違和感の無さ...というのは確かに特筆もの。セルアニメの質が、しかし異常に高いですよね。
えー、話は、ヒトコトで言えば"航空冒険活劇"なんでしょうか、まだ2話までしか観てないのでね(
リンク先を確認くだされ)。中学高校と毎月「航空ファン」買ってた上に航空機プラモデルマニアだったようなヒト(って俺ね)は心擽られると思うなあ...
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「Brasil」Terry Gilliam監督(1985)DVD/ Geneon, 2003
風邪ひいて会社休んでるのにこんなものを観ていてはいけない。説明不要の、鬼才Gilliam監督の今のところの最高傑作。今回は、国内では初のDVD化。監督、脚本家、俳優などのインタビュー+オリジナル予告編の特典ディスク付き2枚組み。因みに、画質が良いなあ(ビデオに比べて)と思ってたら、今回DVD収録はNTSC版だそうで、それだけでも買う価値あるかも。
所謂"監督vs製作/配給の編集闘争"の顛末で複数のバージョンが存在して、お陰でさらに多くのソフト製品が存在することで有名な作品ですが、その辺りは、本ソフトのライナーノーツにもまとめられているので、そちらを参考してもらうとして、クライテリオン版LDを観たことなかった私には、オリジナル予告編がことのほか面白かったっス。フツー、予告編て、一番美味しいとこ集めてるのミエミエで大体こんな映画かあ..って判っちゃうもんですが、この予告編は美味しいとこ集めてるのに、どんな映画かさっぱりわからん。痛快です。
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