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woof/ Le Petit Chien
(Enja Records, 1999)
今年一番の感激モノが、前々回のマイク・ケニーリーの新譜だとすれば、今年一番の掘り出し物、私的ベスト盤はこれ。ギタリスト3人を中心(といっても残りはベースとドラムスのみ)としたインストルメンタル・バンド。
一聴してまず思い出すのは、ジャズ・ベーシストのマーク・ジョンソンが80年代半ばに率いていた「ベース・ディザイアーズ」。このバンド、ピーター・アースキンのドラムとジョンソンのリズム隊に、ジョン・スコフィールドとビル・フリッセルをギターに擁するという凄い面子で、当時(丁度社会人になった頃だ)聴き狂ったモンです。
乾いたドラムスに太く硬質なウッドベースの弦、その上で様々なギターの音がある時は飛び交い、ある時はミニマルなハーモニーを奏で、また土臭い埃っぽさもチラリと見えたり。
そういう「地図にない町」的な所在無さというか浮遊(夢遊)感は、ギタリストの個性強すぎるベース・ディザイアーズより、この「小犬(le
petit chien)」の方が、より強いかも。ギャング・オブ・フォーばりのフィードバック・ノイズから、一転ミニマルで繊細な3重奏に変わる#7。この曲こそまさに自分のツボを具象化した感じ。トーン(音色)の重なりで描かれた抽象画と言うか、カンディンスキーとかクレーの絵みたいな。全くのアブストラクトではなくて...
セガンチニとかムンク。 うーん...
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sleepless/ Kate Rusby
(Pure Records, 2000)
年の瀬もクリスマスを前に女性ボーカルというのは、あざとい選曲かとも思いながら、今年通年で一番良く聴いたケルティック・トラッド系のボーカルものを。
これは1999年リリースで、今のところ一番新しいケイト・ラズビー嬢のアルバム。5月のロンドン出張の際に、タワーレコードのフォーク・コーナーに新譜でフィーチャーされてるのを見て、何となく。でもって、それ以来ずうっと折に触れては(残業帰りの運転席でシートに沈み込みながら)聴いてるという今年の個人的定番。
北ブリテンのトラッドがベースなんだけども、アメリカン・フォークのナイーブな感じも。土空水を感じさせるような包容力のある声(既に、大器の片鱗...)に、若々しい今だからこそ聴ける微妙な"揺れ"も混じってて(まだ凛とした強さよりも優しさがまさってる感じ)、堪りません。って、ただのオヤジだな、こりゃ。
バックの演奏も、「歌」を大事にする職人技。(特にアコーデオンが絶妙)
丁寧に作られてます。ラズビー嬢のギターも、ベテランの演奏にシックリと溶け込んでる。
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次に買ったのが、98年作の「Hourglass」(ソロ第一作)。これもまた、良いんですわ。こちらは、殆どがトラッド曲。ギターとフィドルをフィーチャーした音創り。
こういうトラッドフォークの女性ボーカルものって、まあどれも似たようなと言えば、そうなんだけど(デビューするからには実力派であるわけですよ、どなたも)、逆にいえば「出会い」というか聴き始めの「縁」みたいなもんを大事に付いて行くヒト決めれば、他は別にヨシとしても良いかなと。
という訳で、私は当分このコに付いて行きます。
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dancing/ Mike Keneally & Beer For Dolphins
(Exowax Recordings, 2000)
もしも、
フランク・ザッパと
トッド・ラングレンが競作したら。
天才ポップス・ライターでシンガー(顔は長いが)、ただ実験的な作風に走ると"ハズシ"も多い、トッド・ラングレン。片や、変拍子転調バリバリの怒涛のジャズ・ロック者でギター奏者、ビッグバンドのバンマス、だけどポップな作品では"ハズシ"がち(まあ、独特という言い方もあるが...)なフランク・ザッパ。後者は故人だし、よしんば70年代80年代に邂逅の機会あったとしても、両者の性格では競演なんてこたあ(少なくともそれが完遂するなんてこたあ)万に一つあったかどうか...。でも、もし奇跡的に両者の個性がぶつかりあって融合したら...、そりゃあ史上に残る傑作だったに違いない。
前口上が長くなりましたが、そう、ヒトリの人間の中にラングレンのポップ魂とザッパの変則が同居してれば、その奇跡的な傑作も不可能ではない...。
何となく頷いてしまった貴方。では、このマイク・ケニーリーの新譜をどうぞ。
80年代のザッパ・バンドで活躍したギタリスト。以降はヒトリ録音中心の、
XTCにも通じる独特のポップさと捩れたギターサウンドを発表してきたケニーリー。その彼が、バンドを率いて満を持す。飄々と変拍子を決めるリズム隊、それにバッチリあわせるタイトな管セクション、ジョージ・デュークばりのシャープな鍵盤。ボーカルも良し(#6「Joe」を聴け!)。ギターも凄し。自分はザッパよりもこれの方が好きかも。(勿論、師匠ザッパがいたからこその、この傑作な訳だけど)
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MADE IN -MEDINA-/ RACHID TAHA
(Barclay, 2000)
アルジェリア出身のシンガー、ラシッド・タハの新譜。名前は、ユキさんのHP「tef」で目にしたことがあっったんですが、今回のライっぽくないジャケットを見て、なんとなく購入。なんと、スティーブ・ヒレッジが参加と言うことで、少しビックリ。
そもそもライ(アルジェリアのポップス)の歌い手かと思ってたんですけど、テクノ・ハウス的な感触もあるビシバシとしたタイトなドラムとベースが気持ちよい、なかなかにファンクなアラビック・ロック。そもそも、テクノ・ハウスのもつヒプノティク(催眠的)なところと、中東風旋律の祝祭的・神秘的な部分が上手い具合に相乗してる。その辺はヒレッジ氏の仕事ということなんでしょう。
#10のミニマルなストリングスのループにユッタリとしたボーカルが載る様なんぞは、今まであまり聴いたこと無い感じ。この曲がある種典型ともいえる、中東歌謡独特の弦重奏とパーカッションのサイケデリックな色が真骨頂。これぞライと言わんばかりの歌謡曲もあり、キャットフィッシュばりのファンキーなギターカッティングもあり。乾いて微熱帯びた様なコブシが独特なライ風の詠唱と、ハスキーで少しナゲヤリな野卑たタハの声もかなり魅力的。
ADF辺り好きなヒトも試してみると、意外にイケルかも。
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