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Street of Lost Brothers/ Gary Lucas
(TZADIK, 2000)
ギタリスト、ゲイリー・ルーカスの最新ソロアルバム。
キャプテン・ビーフハートのマジックバンド後期(70年代末から80年代初め)のアルバム群に美麗なギターソロ小曲を遺した後も、精力的かつ神出鬼没な活動を続ける。ギターソロ集、自バンド「Gods
and Monsters」(元ウドゥントップスのロロも参加)、ジョン・ゾーンとのコラボレーションなどなど、多数の傑作をリリース。ビル・フリッセルと並ぶ、当代最高のアメリカン・ギタリストのひとり(全然権威ない発言だけど...)。
今回もカバー曲が最高(このヒト、「結婚行進曲」を滅茶苦茶恰好良いギターソロでキメた前科あり)。ヴェルヴェッツの「European
Son」は、オーバーダブ無しのギターソロ。オリジナル(あのバロウズ的な爆発するサイケ感)に比肩する秀逸な演奏。
さらに、ワグナーのお馴染み「ワルキューレの騎行」も。これも凄い。これまたオーバーダブなしで、管弦オペラもブッ飛ばす分厚く、軽やかで、爆裂したギターソロ。
勿論、カバーだけじゃないです。ユダヤ風ポルカ(クレツマー)の一曲目に始まり、マジックバンド直伝グラス・フィンガー・ギターの美麗なトーンが相変わらずのソロ小品。幼馴染ヴァルター・ホルンとのエレクトリックでアンビエントな共作・共演などなどなど。
諧謔・エナジー・ユーモア・狂気・実験性・哀歓・静寂・狂騒...
およそ、ありとあらゆるモノが垣間見えるカレイドスコープ。ホンとにラジカルなギター音楽聴きたければ、これ必聴でしょう。
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Moors + Christians/ James Hardway
(Dukebox Records Limited, 2000)
ハウス風味のアフロ・キューバン・カリビアン。
なんか拘りまくった音創り。多重パーカッションのポリリズミックなリズムはキューバはハバナ録音。で、ヴォーカルはジャマイカで、ラガマフィン(喋くり)からソウル風正統派。うねるベースとタイトなドラム、ホーンセクションはロンドン。で、これを纏め上げるのがジェイムス・ハードウェイ氏というわけ。
ボーカルによってかなり感じが違ってて、キューバ勢によるボーカル(#1,6,8の3曲)は、アフロビートの感じ強く埃っぽく呪術的。一方、ジャマイカ勢のボーカル曲(残り)は、モダンソウルからラガマフィン風(所謂ダンスホールスタイルの喋繰り)が毎時リあったレゲエ風クラブ・サウンド(#2,5を歌うリサ・ダイナなんて、往年のドーン・ペンを髣髴とさせる)。混ざり具合が絶妙で、結構聴いてるのに飽きる気配なし。
ジャケットに貼ってるシールによれば、各雑誌で絶賛とか。中でも「生のワールド・ミュージックよりエキサイティング」なんてのは言いえて妙。トーキンラウド系の乾いたクール・グルーヴさよりも濃密。その辺のより快楽主義的(祝祭的)な感じがハウスっぽいと思う。
フェラ・クティのカバーをやったジャミロクアイを、クラブ・サウンド風にリミックスした感じ、なんつう例えではわかりませんかね。
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Choice/ Frankie Knuckles
(Azuli
Records, 2000)
ハウス・ミュージックの創始者の一人、フランキー・ナックルズの自選コンピレーション。CD2枚組みで、1枚目が、ハウス誕生の瞬間を記録した80年代初期の選曲。2枚目がその10年後で、ハウスがどこまで辿り着いたかを聴かせる90年代初期からなるという、なかなかに面白い編集。
ナックルズのミックス曲を自ら再度編集して繋いだ、ノンストップのハウス史。
ディスク1(80年代初め)を辿って聴いてると、シンセの音なんかに時代を感じる瞬間あるものの、所謂70年代ソウルをディスコ風にリアレンジしたスタイルから、音の質感が「ハウス」独特のクールさに変化していく様(8曲目辺りのキーボードの風合いとか)が感じられて面白いです。そういう流れを聴いてると、シックあたりがルーツなのかなと思わせる所も。
10年後のディスク2は、芯は硬いけど触感柔めのベース音が絶妙に耳核をアタックするリズムの上に、ヒンヤリした鍵盤やらサックスが載る、快楽のツボ押さえまくりのハウス・サウンドになってて、これまた気持ちよか。ボーカルはサウンドに変化つける材料みたいなモンで、この潔さもクール。これって、本人がライナーに書いてるように、機材の進歩の影響なんでしょうかね。
まあ、そんなこたあドウデモイイやと、脳味噌空っぽにして聴くが吉。勿論、体動かしながらだと血行も促進で、なお効き目あり。
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Visinda og Leyndardomur [科学と神秘]/
鈴木さえ子
(BMG, 2000 :original release 1984)
Average White
Bandの回に、「鈴木さえ子女史の初期のアルバムがCD再発なった」とネタふりに書きましたが、やっぱりこれを自サイトで取上げん訳にはいかんでしょう、ということで、今回。
基本的には鈴木慶一氏とさえ子女史による多重録音、サンプリング、打ち込みが中心なんですけど、矢口博康のソプラノサックスとか、立花ハジメのプラスチックスなギターとか、80年代中盤のテクノ系ポップス・ファンには懐かしくて仰け反ってしまうような味付けが堪りません。勿論少しコケティッシュで澄んだボーカルも良いし、アナログ時計の蓋こじ開けた中身みたいな機械仕掛けのテクノサウンドも絶妙。大体、美人だしねえ。
このアルバムは、「アイスランド」がテーマだそうですけど(タイトルもアイスランド語)、ヒンヤリしたキタノハテの感触よりも、無声映画的な一寸早回しでカタコト動くモノクロ画像みたいな雰囲気(フェイク)でいてモダンな耳ざわり。実はアイスランドと言っても、ジュール・ヴェルヌの冒険小説「地底探検」にインスパイアされたものだとか(ライナーのインタビューから)。言われてみればヴェルヌの元祖スチーム・パンク的な雰囲気も。ジュネ&キャロの映画好きなヒトなんか、これ気に入ってもらえるんでは(もっとポップだけどね)。
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I Wish It Could Be Christmas
Everyday/ 鈴木さえ子
(BMG, 2000 :original release 1983)
この「毎日がクリスマスだったら」が1枚目のソロアルバムで、既に鈴木慶一氏とのコラボレーションによるもの。とても初めてのソロ・アルバムとは思えない位、完成度高いテクノポップ。さえ子女史は、この頃から今に渡ってCM音楽をずうっとやってきてるんですけど、このヒトならではのメロディーと音の感触で、すぐそれとわかる位。だから、このアルバムのサウンドを今初めて聴いても、多分古臭さなど微塵もなくて、むしろどっかで聴いたような既視感覚えるかも。(「あ、この感じはあのCMの...」とか。
どうでしょう、もしこれ見て聴いてみたヒトいるなら、教えてください)
さて、これは全く根拠のない推測ですけど。XTCの「スカイラーキング」は、このアルバムの影響受けてるんじゃないかと思うんですが、如何なもんでしょう。アンディ・パートリッジが鈴木さえ子のファンだったってのは有名な話ですし。久しぶりに聴いて、4曲目なんてかなり感じ似てると思ったんですが。XTCがギター中心の音つくりに対して、こっちはリズムの組み立て中心のテクノポップですけどね。
もういくつ寝るとクリスマスだし。どうでしょう、季節柄の一枚と言うことにして、聴いてみませんか?
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