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Whispering Foils/ Kev Hopper
(Duphonic
Super 45's, 2000)
80年代中盤のイングランドにホンの一瞬、「ロン・ジョンソン」というインディ・レーベルがありまして、面白い音盤をリリースしてました。その中に、「スタンプ」というバンドがあったのを覚えている方もあるかも。ホルガー・ヒラーのプロデュースでビーフハート的な傑作アルバム(CD化を切に希望)をリリースして、解散。ケヴ(ケヴィン)・ホッパー氏は、そのスタンプのベーシストだったヒト。で、このアルバムは2枚目のソロ・アルバム。このアルバムでは、ベースだけでなくて、musical
saw"(ノコギリ
「デリカテッセン」って映画で主人公とヒロインが弾いてた奴ね)、サンプリングも駆使。ノコギリの浮遊感と、サンプリングの電気な感覚が混ざって、ちょっと説明し難い不思議な音(そんなんばっかり聴いてますな最近)。例えるなら坂元龍一の「B2ユニット」。盟友ドミニク・マーコット氏のヴァイブ、マリンバ、中国ゴングなどのパーカッションが妙に東洋的でさらにそういう感じ強い(「Riot
In Lagos」みたい)。エレクトリック・ベースが骨格になった7/8曲目あたりは、ミック・カーンのソロを彷彿とさせるところも。(そもそもこのヒトのベースのフレットレスで歪んだ音と、独特のフレージングにそういう感触がある)
アコースティック(寡黙)でパーカッシブ(祝祭的)で、テクノデリック(電気的)な奇妙だけど、病みつきになるインストルメンタル。とてもとてもお薦め。
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Living In The Flood/ Horace Andy
(Melancholic, 2000)
先週のフィンレイ・クエイがトリッキーの親戚だったら、今週紹介のホレス・アンディー(ハインズ)はマッシヴ・アタックのボーカルとして有名。70年代に活躍したレゲエ・シンガーで、そのマッシヴ・アタックでの起用がきっかけで90年代に蘇ったという話は周知のとおり。
で、今年出たこのソロ・アルバムはマッシヴ・アタックの強力なバックアップを受けたメランコリックなトリップホップ...ってこたあ全然ありませんで、出自の70年代レゲエ・サウンドを基本にした、モダンなボーカル・アルバム。メロディカ(鍵盤ハーモニカですね小学校で習った*)で始まる1曲目からの前半は、それこそレゲエ。深いベースとタイトなドラム、ホーンの合いの手が滅茶格好良い。やっぱりこのヒトの声は、少しメランコリック調にも、軽妙なラバーズ・ロック風にも絶妙にはまる。
後半(#7から)は、よりR&B風増したポップ色強い曲へと変化。この辺にも見事にはまる芸の広さと、このヒトしか...っていうアクの強さが、20年近くもの時差経て復活できた理由でしょうかね。
「レゲエは良くわからんから」とツレナイコト言わず、単純に優れたボーカルアルバム、として聴いてもらいたい秀作。多分、ビートの気持ち良さにもハマってもらえる筈。
レコ屋のレゲエの所ってなんか怖い、ってのわかるんですけど、そういう方は脇目もふらずにホレス・アンディーのとこに直行して下さい。(決して、リー・ペリーとか覗いちゃ駄目よ)
* 今時の子供も鍵盤ハーモニカって音楽の授業で使うんですかね
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Vanguard/ Finley Quaye
(SONY,
2000)
トリッキーの親戚、フィンレイ・クエイの新譜。
これ2枚目で、1枚目もかなり売れたらしいですが、全然知りませんでした。MTVで最近よく新曲のビデオ(「spiritualized」)が流れてまして、なんか良いなあと思ってたら、店頭に一押し盤としてディスプレイされてたんで、つい購入。(翌週には「Kid
A」一色でしたけど...)
奥田民生そっくりじゃないですか?このヒト。妙に親近感湧いてしまうんですよね、ルックスに。格好もその辺歩いてるだらしないスエット姿の兄ちゃんだし。で、そのクエイのジャマイカ訛り、少し仏頂で瓢としたボーカル。このヒトの声、気持ち良い。ラバーズ・ロック系のレゲエ・シンガーみたい(実際そういう曲もある)。上に。ダブを巧みに効かせたレゲエ・ベースのブレイクビーツに乾いた生ドラム、パーカッション。ブースト気味のベース。曲によってフルートが入ったり、ハーモニカ、ファンキーなホーン・セクションが決めたり。
後半8曲目あたりから走り始める深みを増すビートと、終曲寸前11曲目のこのサイケデリックな高揚感は、これぞ「ロック」だし。で、最後の生なバックトラックにノッて語るボーカルに殺られる。
ロック、ポップス、テクノ、レゲエ...そういうジャンルをこれもまた軽く超越してます。なんか飄々としてますけど、このアルバム、滅茶苦茶傑作ですよ。トリッキーや、マッシブ・アタックの闇部を軽く飛び越えてる陽性トリップ・ホップ。1枚目もチェックしなきゃ。
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Fascinoma/ Jon Hassell
(Water
Lily Acoustics Inc., 1999)
先回が熱めのロッキンな(アシーッドな)ジャズ・アルバムだったんで、今回は、静謐で枯れまくったインストルメンタルを。
ジョン・ハッセルと言えば、ブライアン・イーノのアンビエント音楽周辺で良く知られるトランペット吹き(「マラヤの夢理論」とか、ジャケットだけなら見たことあるという人も結構いるんではないでしょうかね)。デビッド・シルビアンのソロ・アルバムなんかでも、枯れたミュート・トランペットで寂びを醸してました。このアルバムは多分最新作で、ライ・クーダーがプロデュース。一見、「へえ」と言いたくなる組み合わせですが、クーダーのサントラ仕事、「ブエナ・ビスタ」の枯れたプロデュース仕事から考えれば、納得できるかも。
1マイクの一発録り。インタープレイ(掛け合い)の緊張感とか黒っぽいスイング(ノリ)を追求した、所謂ジャズ的な演奏ではなくて、ハッセル独特のエスニックな節回しと、ライ・クーダーの無国籍なカントリー風とが溶け合った、不思議なインストルメンタル。
ホール録音の自然なエコーを巧みに使ったベースとドラムが所在無さを際立たせる上に、バンスリ(インド横笛つうかフルート)がさらに絡まってくると、何処に居るのか判らなくなるような奇妙な間隔に陥ります。比較的、ジャズっぽいバップ・ピアノベースになって、エスニック・マイルスなハッセルのトランペットが喋る「キャラバン」のカバーもまた秀逸。
しかし、この盤が「NEW
AGE」のコーナーに置いてあったりすると、レコード屋のジャンル分けッつうのも何だかなあ...って、思っちゃいますなあ。で、どこに置けばいいのと言われても困るけど。
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