This is POP!! | ©gaburu
'00.08
26
Memory Is An Elephant/ Tin Hat Trio
(Angel, 1999)

アコーデオン、ヴァイオリン、ギターのトリオ。メンバー3人ともに、ビル・フリセ゛ル/ジョン・ゾーンなど、所謂ベイ・エリア/ニッティング・ファクトリー周辺の人脈との交流ある音楽家。ニッティング・ファクトリーで2年間エンジニアを務めたという、ギタリストのマーク・オートンが中心に作曲で、タンゴともフォーク/カントリーともジャズともつかない不可思議なアンサンブル。この「想い出は象」(って直訳)は、デビュー・アルバム。
一聴、バンドネオンの印象が強烈で、テリー・ギリアム監督の「12 モンキーズ」のテーマ曲が浮かんだ。不可思議さはまさにあの映画の筋のような感じで、「どっかで聴いたことある気がするけど、一度も聴いたことがない」って具合。パーカッシブなギターのリズムに、メランコリックで少し寂としたバンドネオン。少しハスキーなバイオリンが歌うという感じ。楽器構成がシンプルな分、絡み合い方がが視覚的で面白い。タンゴ風の曲調がベース(バンドネオンが入るとどうしてもね...)だけど、少し神経質で、少しひねてて、少しユーモラスな、抽象画の中に小さな象がいるジャケ絵みたいな、不思議。毎日聴く類の音楽じゃないけど、だらだらとした午後にだらだらと聴くにはうってつけ。
ニッティング...って枕詞だけで、好き嫌いありそうですけど(スノッブ好み、みたいな一般イメージあるからなあ)、まあ、そう言わずに、聴いてください。 ビル・フリゼルの一連の自己バンドものとかの国籍不明で浮遊感(つうか夢遊感)あるサウンドとか好きなら、これもハマる筈。
19
This/ Krom(Primal Music, 2000)
実はこのCD。一度聴いてピンと来なかったんで、ずっと車の中に放置されてたんですが、先日帰宅途中に何気に聴いたら、これがはまった。
自分が住んでるドイツは、夏の日は結構長いんですけど(夏至のあたりだと日没は9時過ぎ...)、最近それも随分短くなって9時前に帰宅ともなると随分薄暗い感じ。で、その薄暮の街を車で走りながら聴いてると、ぼやりとした建物や植物のシルエットとまだ少し明るい空のコントラストに、音が重なって、なんとも言えない奇妙で落ち着いた感じが...。
男女2人のエレクトリック・ポップ・ユニット、でしょうかね、ヒトコトで言えば。で、先週に続き、これも北欧。(決して選んで北欧ものを聴いてる訳ではないんだけど...)
所謂ニューウエーブ系の少し物憂げな響きの入った女性ヴォーカルが、ストリングス/電子音/生ドラムを効果的に使った、テクノなバックトラックに溶け込む。そこはかとなくエキゾチックな旋律が入ったメロディーが、また不思議な感覚。トレーシー・ソーン歌うマッシブ・アタックって感じ。(好きでしょ?)アルバム後半の薄暗さを増す曲調とダブの効果で、いつのまにか全身が沈み込んでいく感じが、堪らない。薄暗くも薄明るくも無いその中間位の雰囲気。水中からぼんやり水面を眺めるような...かな。この少し体温より低い感じ、意外に夏にも向くかも。(でも明るくはないよ)
12
Crushing You With Style/ Giant Robot
(Howaii Sounds, 2000)

「ジャイアント・ロボ」
結局、「ま゛!!」という喋りで有名な特撮TV番組「ジャイアントロボ」とは全く関係ないことが判ったものの、その落胆(笑)を補って余りある音の格好良さ。
インディー・ファンクですかね、ヒトコトで言うなら。例えば、ア・サートン・レイシオ(80年代初期にファクトリー・レーベルで活躍した、ポスト・パンク・ファンク・バンド)のような、冷たくて乾いたグルーヴ。ボコーダー(って、ロボットみたいな声)使ったりしたプラスチックな感じだけども、ギターの音やベース、ドラムの音の録り方は生っぽく、アナログな質感。爆発することなく淡々とタイトなリズムを叩き出す、一丸のアンサンブルが、ツボに嵌る。
スエーデンのバンドらしいんですが、所謂一般的なイメージの北欧らしさ(透明感)というのは皆無。冷めた空気にざらりとしたコンクリートの街、働いて寝て、税金収めて社会保障うけて...なんて、北ヨーロッパの空疎なモダンライフ(スエーデンって貧乏なんだよね。石油の取れるノルウエーと違って)を、淡々としたストーリーで綴る感じ(多分)。歌詞の決め台詞が、また耳に残るんですよね。さびの所、思わず口ずさんでしまう。その辺のセンス、80年代終わりに近田春夫がやってたビブラストーンに近いものを感じます(自分、好きだったんですが...)。クールで少し空疎な感じのファンクやテクノが好きなら、これは絶対お薦め。(そうそう、1曲ビデオも収録/#5. Helsinki Rock City でお徳だし )
05
Sound & Rumdur/ Brass Monkeys
(Topic Record Ltd., 1998)

ブリティッシュ・フォークの変り種(?)"ブラス・モンキー"。英国フォークの至宝マーティン・カーシー(ボーカル、ギター)と、アコーデオンのジョン・カークパトリックが中心だが、その名のとおりのブラス・セクションを大きくフィーチャーした、実験的な構成が特徴。とは言え、約10年毎に1枚というペースで今回がようやく3作目という大ベテラン。
管楽器の織り成す中低音の厚みが、メロディーをベースラインをリズムを支える、一見変則的な構成。これが、弦楽器中心の普通の英国フォーク・サウンドと違って、とても新鮮。ブラス・セクションで英国トラッドの独特の旋律を演奏すると、なんともファランクス(方陣)の行進に合いそうな勇壮な響きが加わる感じで、管中心だからといってジャズ的なところは無く、しっかり英国フォークのあの中世的な詩情ある独特の旋律そのままになってるとこが不思議。円熟のアンサンブルも絶妙で、ジャケット写真のそのまんまにいい年の親爺達が嬉々として音合わせてる姿が目に浮かぶかのよう。
アメリカン・フォークの乾いた叙情とはまた違う、風雪を越えてきたトラッドならではのダンス音楽。機能性はテクノ以上かも。(自分はテクノよりこっちの方が体動く。自分にとってテクノはダンス音楽じゃないし...。)これもまたイギリスの音楽。

2006年2月